情報システム部とコミュニケーション ― すれ違いは、専門性の中でも起きている ―
「わかっているはず」が生む、静かなすれ違い
「同じエンジニア同士なのに、話が噛み合わない」
情報システム部の現場では、ときどきそんな感覚に立ち止まることがあります。
「専門用語も通じる」「背景知識も共有している」一見すると、会話は問題なく成立しているように見えます。
それでもどこかで、「少し違う方向に進んでいるのではないか」と感じる瞬間があります。
現場と情シスのすれ違いは、これまでにも多く語られてきました。
しかし実際には、認識のズレは“非エンジニアとの間”だけで起きているわけではありません。
同じ技術領域に身を置くエンジニア同士でさえ、前提は驚くほど簡単に食い違います。

技術が高度になり、役割が細分化されるほど、「わかっているはず」という前提は増えていきます。
・インフラの安定性を第一に考える人
・アプリケーションの機能要件を重視する人
・日々の運用負荷を気にかける人
・セキュリティリスクを最小化しようとする人
・現場支援の視点
同じ「情報システム部」という言葉で括られていても、それぞれが見ている世界は少しずつ違います。見ているリスクも、優先順位も、成功の定義も異なります。
「問題ない」という言葉の裏には、“設計としては成立している”という意味が含まれているかもしれません。一方で「それは困る」という反応の裏には、“運用としては負担が大きい”という感覚があるのかもしれません。
どちらも誤りではありません。ただ、立っている場所が違うだけです。
説明では埋まらない、「視点」の違い
認識のズレに直面すると、「説明が足りなかったのではないか」「資料をもっと整えるべきだったのではないか」と考えることがあります。
もちろん、それも大切な視点です。しかし、説明を重ねても解消しないズレがあることも、多くの人が経験しているのではないでしょうか。
その多くは、知識の不足ではなく、相手がどの立場で話を聞いているのかを十分に共有できていないことから生まれます。
同じ資料を見ていても、ある人はリスクを読み取り、ある人は許容範囲だと感じ、また別の人は現場への影響を思い浮かべる。
見ているものが違えば、結論が違うのは自然なことです。
だからこそ、「ではどうするか」という結論を急ぐ前に、「何を一番大切にしたいのか」を言葉にすることが重要になります。
・安定性なのか。
・スピードなのか。
・現場の負担軽減なのか。
・将来を見据えた拡張性なのか。
前提が共有されると、意見の違いは衝突ではなく、選択肢として整理できるようになります。

前提を整えるという仕事、そして問い
ここで少し、視点を変えて考えてみます。
介護施設の現場には、施設運営、看護、介護、ケアプラン作成など、それぞれ異なる役割と専門性があります。
外から見ているだけでは、その細かな判断や日々の負担感を、正確に理解することは簡単ではありません。ただ、立場や役割が違えば、同じ出来事でも見え方が変わる、という点は共通しているように思えます。
さらに、経験のある方と、これから経験を積んでいく方とでは、気づけるポイントや判断のタイミングが異なることもあるでしょう。
断定はできませんが、ここにもまた、情報システム部の中で起きているのと似た、「前提の違いによるすれ違い」があるのかもしれません。
情報システム部に求められているのは、すべてを理解し、正解を示すことではないのだと思います。
立場の違いがあることを前提にし、判断軸が異なることを受け止め、結論に至るまでの整理を支援する。
情シスは「決める部署」というより、「決められる状態を整える部署」として、組織に関わっていく存在なのではないでしょうか。
情報を扱う部門だからこそ、システムだけでなく、人と人の間にある“前提”にも目を向ける。
日々のやり取りの中で、私たちはどこまで、その前提を言葉にできているでしょうか。
そして、相手がどの立場からその話を聞いているのかを、本当に想像できているでしょうか。
今日の対話の中に、まだ言葉にされていない前提は、残っていないでしょうか。

株式会社エクセレントケアシステム 執行役員 / 情報システム部 部長(CTO)
システム開発や技術戦略の立案を担うCTOとして、2024年より現職。25年以上のエンジニア経験に加え、ITコンサルタントとして公共・医療・製造・介護分野の業務改善プロジェクトに多数携わる。 また、過去にはソフトウェア企業の取締役として事業推進を担い、経営視点を踏まえたシステム導入やDX推進に強みを持つ。現場と経営の両面から、持続可能な技術基盤の構築に取り組んでいる。