介護保険制度とその方向性④ -マクロ的視点を持つことの重要性-

株式会社エクセレントケアシステム執行役員(「品質管理部」)の坂本と申します。EX Magazineを担当するようになって12回目の掲載となり、2025年度最後のコラム執筆となります。これまで3回にわたってマクロ的視点にたって、介護保険制度や今後の改正に対してどのように対応していけばよいか、その中で品質をどのように考えていけばよいかについて、皆さんと一緒に考えるための検討材料の提供を主眼に述べてきました。その結果、引き続き、介護保険制度や介護報酬請求の仕組みとその解説の回となっていますが、我々が介護サービスの提供とともにその品質を向上させるためには、介護保険制度や介護報酬請求の仕組みを理解し、そのうえにサービス品質は成り立っていることを認識することを前提に、介護サービスを提供する指定事業者だけでなく利用料を支払う利用者にとってわかりにくく算定の根拠が不明確なことを確認することが、より丁寧なサービス提供、品質向上に繋がると思います。加えて、複雑な加算・減算根拠を含め、各介護サービスが生み出される算定根拠を把握した上で、「説明責任」を果たし、利用者一人ひとりに丁寧な対応をすることが、サービスの質向上の近道になることを述べてきました。

今回はその前3回のまとめの回としつつ、コラムを終えたいと思います。

「介護報酬」の機能と役割

ここでは、寺尾(2005:146-150)*1の診療報酬の機能と役割の整理を参考に、介護報酬の機能と役割について考えます。但し、文字数の関係で、今回は以下3つの機能のみ述べたいと思います。

1)3つの機能

(1)施設・事業所の経営維持機能
施設・事業所は、利用者に介護サービスを提供した見返りとして、利用料金として費用の原則1割分を徴収するものの、残り9割は介護報酬として請求することになっています。また、介護報酬は社会福祉法人があらかじめ認可を受けた社会福祉事業(ここでは介護保険の対象となる介護サービス)ならびに法人本部の運営のため、人件費・事業費・管理費各区分間の充当、施設整備等借入の償還、積立金の積立、他の社会福祉事業への繰り入れ、法人本部への繰り入れなどが許されています(厚生労働省2013)*2。したがって、介護報酬は、施設・事業所の経営を維持する機能をもっています。

(2)給付の範囲・内容の設定機能
介護保険制度は、医療保険制度と同じ社会保険ですが、その内容は異なります。その1つとして「区分支給限度基準額(利用限度額)」という考えがあります。これは、介護保険の支給対象者を要支援1・2、要介護1〜5に分類し、それぞれの要支援状態・要介護状態に応じて典型的なケースを想定したうえで、それぞれのタイプごとに設定された標準的に必要と考えられるサービスの組み合わせ利用例を勘案し設定しています(厚生労働省2014)*3。したがって、利用者は原則1月あたり利用限度額の範囲内で介護サービスを受けることになっています。そのため、各サービスの「合成単位数」や加算・減算項目の単位数の増減が、そのまま1月あたりの介護サービスの提供量やサービスの種類など給付の範囲を左右すると言っても過言ではありません。このように、介護報酬は、介護保険給付の範囲・内容を設定する機能をもっています。

(3)介護専門職のサービス評価機能
各介護サービスには、以前お話ししたように、サービスの内容や提供時間、利用者の要支援・要介護状態に応じて「合成単位数」が設定されています。例えば、訪問介護の場合、1人の訪問介護員が20分以上30分未満の身体介護を行った場合、「合成単位数」は248単位であり、1単位10円と仮定すると2,480円となります。一方、1人の訪問介護員が同じ利用者に30分以上1時間未満の身体介護を行った場合、「合成単位数」は394単位であり、1単位10円と仮定すると3,940円となります。訪問介護は、事業所から利用者の自宅へ訪問し、身体介護、生活援助、通院等乗降介助を行うサービスです。したがって、訪問介護員は、原則所属する事業所から徒歩もしくは交通手段を使って利用者の自宅へ向かうことからそれぞれの「合成単位数」には交通費用も含まれており、その費用は同じ利用者にサービスを提供していることから交通費は同じ(仮に1回300円)の費用がかかると想定すると、利用時間30分の差は、1,460円となります。すなわち、訪問介護員30分の身体介護のサービス評価は金額に直すと1,460円であるといえます。このように、介護報酬単位は、介護サービスに係る専門職のサービスを評価したものであるといえます。したがって、介護報酬は、介護専門職のサービスを評価する機能をもっています。

2)介護報酬の問題と品質

介護報酬とは、厚生労働省(2022)*4によると「(指定)事業者が利用者に介護サービスを提供した場合に、その対価として(指定)事業者に支払われるサービス費用をいう」と定義しています。この定義に即して実際の介護報酬をみた場合、介護報酬には以下4点について、問題や課題があると考えています。

・介護サービス(技術)の対価としての反映の不十分さ
・介護サービスに付随する費用の反映の不十分さ
・報酬項目の多様化、複雑化
・報酬体系の不可視性

以上のことを勘案した上で、介護サービスの質・品質を考えてみると、利用者や利用者家族が要求や期待を満たしているサービス(=品質)を提供するためには、我々専門職がこれらの問題を考えた上で、新たなサービス(品質)を生み出す力を身につける、提供する力を身につける必要があります。単に、介護報酬体系で決められたサービスの範囲内で介護サービスを提供しても、それは利用者や利用者家族が要求・期待するサービス水準に達成していないことが考えられます。したがって、我々は、常に介護保険制度の最新情報にアンテナを張るとともに、利用者や利用者家族、そして今後介護サービスを必要とする地域住民が何を求めているのかを考える必要があると思います。

 

1年間、拙い文書を読んでいただき感謝申し上げます。今後も、皆様とともに介護、いや社会福祉をよくしていけるよう一緒に頑張っていけたらと思います。

<脚注・参考文献>
*1 厚生労働省(2013)「社会福祉法人における収入・収益の取扱いの現状 第2回社会福祉法人の在り方等に関する検討会参考資料」、(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000027781.pdf, 2022.7.14)
*2 寺尾正之(2005)「診療報酬と日本医療の動向」日野秀逸『市場化の中の「医療改革」 国民皆保険制の行方』新日本出版社.
*3 厚生労働省(2014)「区分支給限度基準額について 社会保障審議会介護給付費分科会第103回資料1」(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000049257.pdf, 2022.7.14)
*4 厚生労働省(2022)「介護報酬について」(https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/housyu/housyu.html, 2022.7.14)

Writer
坂本圭
坂本 圭 / Kei Sakamoto

株式会社エクセレントケアシステム 執行役員 / 品質管理部 部長
川崎医療福祉大学 医療福祉マネジメント学部 非常勤講師、川崎医療福祉大学大学院 医療福祉マネジメント学研究科医療秘書学専攻 非常勤講師、一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟国家試験合格支援委員会委員(科目幹事)、公益社団法人岡山県社会福祉士会担当理事、第三者評価委員会委員(評価調査者・事務担当)、一般社団法人日本レセプト学会理事、社会福祉法人弘徳学園評議員、NPO法人晴れ アドバイザー

病院の事務、通所介護の生活相談員を経験、川崎医療福祉大学医療福祉マネジメント学部医療福祉経営学科副学科長を経て、2024年より現職。福祉サービス第三者評価の評価調査者を担っている。医療福祉制度に関する学術論文多数発表。分担執筆『障がい福祉のすすめ』第5章(学文社)などの著書もある。川崎医療福祉大学創立30年記念「未来の医療福祉のあたり前を考える」論文部門最優秀賞受賞。博士(社会福祉学)・修士(社会学)ともに佛教大学、社会福祉士。