介護保険制度とその方向性① -マクロ的視点を持つことの重要性-

公開日:2025年12月22日

株式会社エクセレントケアシステム執行役員(「品質管理部」)の坂本と申します。EX Magazineを担当するようになって9回目の掲載となります。前回までの合計5回にわたり、「質の高いケア」を実現するために必要な第三者評価の視点について、詳述してきました。このように、前回までの5回はいわばミクロ的視点からの「質の高いケア」実現に向けた方向性について考えてきました。

ところが、介護サービスの質向上のためには、介護保険制度やそれを取り巻く社会や経済状況を把握したうえでどのように組織構築や運営を進めるのかを検討する必要があります。そこで、今回からの残り4回はマクロ的視点にたって、介護保険制度や今後の改正に対してどのように対応していけばよいか、その検討材料を提供できたらと思います。なお、このことについては、本コラム第1回で自己紹介させていただいた際の国立療養所長嶋愛生園へ訪問した際の経験がもととなっていることを、改めで強調したうえでコラムを進めていきます。

介護保険制度の仕組み

このコラムを読まれている方にとっては釈迦に説法かと存じますが、改めて介護保険制度のしくみについて確認したいと思います。

介護保険制度は、高齢社会の到来や家族機能の低下に伴う介護サービスの需要増加に対応すべく2000(平成12)年4月に実施され、財政規模は今や総費用ベースで11.9兆円と国民医療費の約4分の1弱となっています(厚生労働省2025)。したがって、介護保険制度は今やなくてはならない制度として定着しており、介護サービスが公平に利用者に提供され、安心した老後が送れるよう持続可能な制度運営がなされるために、事業所や施設に最適に介護報酬が分配されることが必要となってくるのは当然のことです。これら介護報酬を含めた介護サービスの提供を支える介護保険制度の給付と負担の流れを整理すると図表1のとおりとなります。

図表1 介護保険制度の給付と負担の流れ

出所:筆者作成

それによると、要介護・要支援認定を受けた被保険者は、高齢者施設などの指定事業者から介護給付(介護サービス)を受ける(①)と、利用料として介護費用の1〜3割の自己負担を支払うことになります(②)。介護サービスを提供した高齢者施設などの指定事業者は、介護保険制度から提供された介護サービス費用の残り9〜7割の介護報酬を受ける(③)ことで施設経営を維持しています。今までお話しした品質に関わる費用も、この中に含まれます。一方、要介護・要支援認定を受けていない40歳以上の被保険者含めた被保険者全ては、(介護)保険者に保険料を支払う(④)ことで介護保険制度は維持されており、その他に財源の残り50%は国、都道府県、市町村に納められた税金(⑤)を原資として、公費負担(⑥)で賄われることになっています。

介護報酬請求の仕組みと決定

前述の通り、品質に関わる費用は、介護事業を経営する法人からすると、確実に請求(介護報酬請求)をしなければ、介護サービスの永続性を実現することができません。言い換えれば、実現できなければ介護サービスを必要とする目の前の利用者や利用者家族は、路頭に迷うことになります。したがって、我々は介護報酬を確実に請求する必要があります。

さて、ここでは、介護報酬に基づいた請求がどのようにされているのか図表2をもとに見ていきます。

まず、要介護・要支援認定を受けた利用者は、居宅介護支援事業所もしくは地域包括支援センターに所属するケアマネジャーと面談します。その際、利用者の状態の把握や利用者ならびのその家族がどのような生活を望んでいるのかについて伝え、現在おかれている問題や課題、目標が設定され、それに基づいてケアプランが作成されます(①)。

作成されたケアプランに対し、ケアマネジャーは利用者に説明し同意が得られると、利用者は、ケアプランに記載のサービスが提供される指定事業者を選択し、契約を結ぶことになります(②)。

その後、ケアマネジャーは開始月までに利用者に対しては、「サービス利用票」により利用計画を利用者へ提示し(③-1)、説明と同意を得た後、各指定事業所に対しては、利用者の健康状態や既往歴、ADLの状態、利用者家族の状況に関する情報とともにケアプランに記載のサービス内容や、実施日時や回数などのサービス情報を「サービス提供票」などによって提供することになります(③-2)。

指定事業者は、その「サービス提供票」などの情報に基づき、利用者に対しサービスを提供するとともに(④)、利用者はサービス価格に応じた自己負担(1〜3割)を支払うことになります(⑤)。

指定事業者は、利用者に提供したサービスについて、その実施状況や利用者の様子など日々の記録をケース記録に残すとともに、あわせて「サービス提供票」の実績の欄に実施した旨の記録をすることになります。その後、翌月になると実績の欄に記録された「サービス提供票」を実績報告として担当のケアマネジャーへ提示するとともに(⑥)、提示されたケアマネジャーはその情報をもとに「給付管理票」を作成し、国民健康保険団体連合会へ居宅介護支援費(要介護者のケアプランを作成した場合)もしくは介護予防支援費(要支援者のケアプランを作成した場合)などの介護報酬を請求することになります(⑦-1)。

同時に、指定事業者は先述の「サービス提供票」(実績の記載済み)をもとに「介護給付費請求書・明細書」を作成し国民健康保険団体連合会へ利用者に提供されたサービスの費用(自己負担分を除く保険請求額)を請求します(⑦-2)。

そして、それらをもとに、介護報酬が居宅介護支援事業所、指定事業者へ支払われます(⑧-1、⑧-2)。

図表2 介護報酬請求の仕組み①

出所:筆者作成

このように、介護報酬請求の仕組みは、医療保険制度の診療報酬請求の仕組みと一見するとほとんど同じに見えます。ところが、介護報酬請求の過程は診療報酬請求の過程と異なるところがあります。それが、「突合審査」です。この仕組みは、居宅介護支援事業所もしくは地域包括支援センター所属のケアマネジャーが作成するケアプランに記載された当初計画されている介護サービスが、指定事業所によって着実に提供されているか確認する仕組みです。すなわち、図表3で整理したように、居宅介護支援事業所などに所属のケアマネジャーは、ケアプランをもとにその月の介護サービスの提供日、時間、回数などを「サービス提供票」にまとめ、介護サービスの提供主体である指定事業所と共有します。指定事業所は、その「サービス提供票」をもとに利用者に介護サービスを提供し、その実施にかかった費用を請求することになります。ケアマネジャーは指定事業所から実績情報を受け取り「給付管理表」を作成し、国民健康保険団体連合会に提出します。その際、「給付管理票」に記載の内容と、各指定事業所が作成した請求書を突合します。このため、指定事業所は、ケアプランに計画された介護サービス以外の提供は原則禁止されており、利用者に対し良かれと思って当初の介護サービス内容から変更や追加をして請求した場合、その部分においては報酬として支払われることはありません。もし、変更が必要な場合は、あらかじめ担当のケアマネジャーに報告、相談する事が必要になります。

図表3 介護報酬請求の仕組み②(突合審査)

出所:筆者作成

介護保険制度や介護報酬請求と品質との関係

今回は、介護保険制度や介護報酬請求の仕組みとその解説の回となりましたが、我々が介護サービスの提供とともにその品質を向上させるためには、介護保険制度や介護報酬請求の仕組みを理解し、そのうえに成り立っていることを認識する必要があります。そのことは、利用者が支払う自己負担や保険料、すべての国民が負担する税金が原資であることを意味しています。難しい話をしてしましましたが、介護保険制度はすべての国民によって支えられているとともに、サービス品質の維持向上も同じであることを受け止め、毎日の業務に謙虚に向き合うことこそ、サービスの質向上につながると考えています。

<脚注・参考文献>
*1 厚生労働省(2025) 「介護保険における総費用の推移」https://www.mhlw.go.jp/content/zaiseinoshikumi.pdf

Writer
坂本圭
坂本 圭 / Kei Sakamoto

株式会社エクセレントケアシステム 執行役員 / 品質管理部 部長
川崎医療福祉大学 医療福祉マネジメント学部 非常勤講師、川崎医療福祉大学大学院 医療福祉マネジメント学研究科医療秘書学専攻 非常勤講師、一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟国家試験合格支援委員会委員(科目幹事)、公益社団法人岡山県社会福祉士会担当理事、第三者評価委員会委員(評価調査者・事務担当)、一般社団法人日本レセプト学会理事、社会福祉法人弘徳学園評議員、NPO法人晴れ アドバイザー

病院の事務、通所介護の生活相談員を経験、川崎医療福祉大学医療福祉マネジメント学部医療福祉経営学科副学科長を経て、2024年より現職。福祉サービス第三者評価の評価調査者を担っている。医療福祉制度に関する学術論文多数発表。分担執筆『障がい福祉のすすめ』第5章(学文社)などの著書もある。川崎医療福祉大学創立30年記念「未来の医療福祉のあたり前を考える」論文部門最優秀賞受賞。博士(社会福祉学)・修士(社会学)ともに佛教大学、社会福祉士。