採用情報はこちら
EX Magazine
介護・福祉業界にまつわる記事やコラム、
エクセレントグループのカルチャー・取り組みを掲載しています

マネジメントできないという陥穽(おとしあな)【マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~】

公開日:2023年10月2日

本記事は、人材開発部によるマネジメント連載企画「マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~」のVol.1です。

はじめに

継続の使命を果たせるか

介護経営には、落とし穴がある。それは、マネジメントできないマネージャーたちの存在である。

そんな管理者はレアケースだろうと、あなたは思うだろうか。入所・入居・通所系・複合系で年平均の稼働率が80%を割っているところや、訪問系で利用者数が減り続けているところ。年間離職率が20%を超えているところ。事故発生時に事故報告書を書かない職員が複数いるところ。たとえばこれらの事業所には、筆者の経験上、マネジメントできない管理者がいる可能性が高い。

基準が厳しいだろうか。いや、そうは思わない。事業経営においていちばん重要なことは、いうまでもなく継続性だ。創業理念の実現も、職員の雇用も、事業が続かなければどうにもならない。しかも、他の企業経営と違って、介護経営は許認可事業である。その地域で必要と認められたインフラサービスである以上、その事業継続には公的使命が上乗せされていると考えるべきだ。当然、開設にも、閉設にも、重い責任が伴う。

そう考えたとき、例にあげた稼働率や離職率の基準は、決して高くはないと思う。またその対象となる事業所も少なくないはずだ。将来にわたって、3年ごとに介護報酬が変動し、働き手が減り続けていくことはほぼ確実である。そんな不安定な見通しの中で、継続性に疑問符が付く事業所をこのままにしておくのにも限度がある。いま何か手を打つ必要があるだろう。

事業所である以上、成果は必要

もともと介護事業は利益が薄い。低い稼働率や利用者減はこの薄利をさらに薄くする。この業界の人材不足の深刻さは年々増している。そのうえ離職率が高くては現場がまわらない。事故防止はケアの最低限の担保だ。その報告段階に不備があるようでは質の話どころではない。

誰もがまずいと感じる運営上の不具合に、一定期間改善傾向がみられない。これは、失礼ながら管理者によるマネジメントができていない、と言わざるを得ない。

もちろん、事業経営は合わせ技だ。多くの併設型居宅介護支援事業所がそうであるように、その事業をコストセンターと位置付けている場合や、事業全体の人材育成拠点として高い人件費率を認めている場合もあるだろう。あるいは、育成中や立て直し中の事業所について、期限を切って業績不振を許容していることもあり得る。

ただ、事業所である以上、基本的にはやはり何らかの成果が必要である。組織を動かして成果をあげることをマネジメントと呼ぶならば、事業所のヒト・モノ・カネをうまく動かして事業継続に足る実績をあげることが、介護事業のマネジメントだ。それができない状態の放置は、間違いなく介護経営の落とし穴である。そしてそれは何よりも、利用者のケアを直接担う職員のマネジメントが不安定になっているという意味で、ケアの危機でもある。

なぜ「落とし穴」なのか

なぜ、「壁」や「問題」ではなく、「落とし穴」なのか。一見、落とし穴がないように見えるのに、足を乗せると穴に落ちるのが落とし穴だからだ。経営層が、彼・彼女はマネジメントができると思って管理者にするものの、実際はマネジメントができない。任命した方も、された方も、まさかそうなるとは思ってない。だから落とし穴なのである。

「壁」と認識しているのなら、乗り越え方を考えられる。「問題」だとわかっているのなら、解決法を探すだろう。だが、どうにもならないものをどうにかなると思っていては、手の打ちようがない。

経営層が「それなりの経験がある職員を管理職にすればマネジメントができるはずだ」と考えている限り、この「まさか」は続くだろう。職員が「それなりの経験があるから管理職になればマネジメントができるだろう」と考えている限り、落とし穴には落ち続けるにちがいない。

管理者になればマネジメントができるようになるというのは、幻想である。もちろん、そういうケースもないわけではないが、そんなムシのいい話はほとんどないと考えるべきだ。任命するだけでうまくいくという幻想を捨てたとき、この現実は初めて「壁」になり、「問題」になる。

まず、マネジメントできないマネージャーの存在が、介護経営の「壁」であり、「問題」であると認識する必要がある。その上で、その乗り越え方、解決法を探っていく。それが本連載のテーマだ。

マネジメント連載企画Vol.2「第1章 陥穽(おとしあな)の実像➀」へ続く

Writer
柴垣竹生
柴垣 竹生 / Takeo Shibagaki
株式会社エクセレントケアシステム 執行役員 / 人材開発部 部長
兵庫県立大学大学院経営研究科(MBA)講師、公益財団法人介護労働安定センター 雇用管理・人材育成コンサルタント、大阪市モデル事業「介護の職場担い手創出事業」アドバイザー、日本介護経営学会会員

1966年大阪府生まれ。大手生命保険会社勤務を経て、1999年に介護業界に転じ、上場企業および社会福祉法人において数々のマネジメント職を歴任。2019 年より現職。マネジメントに関する講演実績多数。近著に『老いに優れる』(社会保険研究所)、『介護現場をイキイキさせるマネジメント術』(日本ヘルスケアテクノ)がある。