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第3章 介護現場マネジメントの方法⑦【マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~】

公開日:2025年4月1日

本記事は、人材開発部によるマネジメント連載企画「マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~」のVol.19です。(Vol.1から読み始める場合はこちら

60点のリーダーシップ①~目標を決める〜

まず、2つの目標を決める

リーダーシップは天性のもので学ぶことはできない、それを持った人材を探してくるしかない、という話は、この際一旦横に置こう。自分のことを棚に上げて理想のリーダー像を誰かれなしに押し付けるのも、もうやめにしよう。

もちろん100点は目指す。だが、その前に、マイルストーンとしての60点のリーダーシップに辿り着かなければ話にならない。「目標を決める」「人の心を動かす」「やる気を高める」という3つのリーダーシップの及第点を探ってみたい。

まずひとつめは、目標を決めることだ。及第点の目標設定をするためには、外せないポイントが2つある。それは、「あなたが求める職場の姿」と「法人が求める職場の姿」を思い描くことである。どちらが欠けてもいけない。最初に、2つとも必ず決めておく。

普通、事業所の目標は、「法人が求める職場の姿」だけでいいとされている。だが、それは間違っている。なぜなら、それだけを目標に掲げるのであれば、管理者はあなたでなくても構わないからだ。あなたが管理者である以上、「あなたが求める職場の姿」も目標の中に入っていなければおかしいだろう。自分がマネジメントする職場に自分の望む目標がなければ、あなたが管理者をする意味がなくなってしまう。

「法人が求める職場の姿」だけでは足りない

「法人が求める職場の姿」というのは大体決まっている。一言でいえば、利用者に良いサービスを提供して、良い業績をあげる職場だ。良いサービスが提供できているかどうかは、その職場を辞める人の数と事故が起きる数である程度は判断できる、その結果として良い業績になる、と考える経営層は多い。

従って、①低い離職率、②低い事故発生率、③年間計画通りの売上・利益、この3つが「法人が求める職場の姿」ということになる。平たくいえば、「数字にあらわれる結果」だ。

法人から与えられるこの目標だけで、あなたが管理者の仕事を続けられるというなら、それはそれで構わない。この結果さえ出していれば、たぶん法人は文句を言わないだろう。だが、実際の話、この目標を追いかけるだけで、介護事業所の管理者という大変な仕事を続けることは難しいと思う。自分自身のモチベーションを維持するためには、「あなたが求める職場の姿」も必要になる。

長く管理者を続けていれば、立て続けに人が辞めることもある。事故やトラブルが重なる場合もある。業績が低迷する時期もある。法人が求める職場の姿から乖離していくと、当然、経営層からのプレッシャーも増していく。その心理的負担は並大抵のものではない。そんなとき、「あなたが求める職場の姿」というもうひとつの目標は、きっとあなたの支えになる。

職員同士が助け合えない原因は何か

筆者はこれまで、数えきれないほどの管理者や管理者候補に、実現したい職場の姿を訊ねてきた。いちばん多かった答えは何だと思われるだろうか。それは、「職員同士が助け合える職場」である。これだけチームケアが重要だと言われ続けていてなお、彼ら彼女らが求める職場の姿は、「助け合い」なのである。それは裏返せば、助け合えない介護現場がいかに多いのかを物語っている。

多くの人が、職員同士が助け合えない原因は職員にあると思っていることだろう。確かにそういう側面もないわけではないが、最大の原因は別にある。「目標を決める」「人の心を動かす」「やる気を高める」という3つのリーダーシップが管理者に欠如しているのだ。とりわけ、管理者が職員に目標を指し示していないのは致命的である。

あなたの求める職場の姿が、もし「助け合える職場」であるなら、「私たちの目標は、職員同士が助け合える職場をつくることです」と、全職員に向かって覚悟を決めて宣言するべきだ。宣言するだけで職員が助け合えるようになるわけではないが、少なくとも、管理者が宣言しなければ何もはじまらない。それだけは確かだ。求める姿を言葉にしなければ、誰もその姿は目指さない。

法人が求める職場の姿として、離職率と事故発生率と売上・利益の計画を示し、同時にあなたが求める職場の姿も示す。これが60点の目標設定であり、管理者が最初にするべき仕事になる。

マネジメント連載企画Vol.20「第3章 介護現場マネジメントの方法⑧」へ続く

Writer
柴垣竹生
柴垣 竹生 / Takeo Shibagaki
株式会社エクセレントケアシステム 執行役員 / 人材開発部 部長
兵庫県立大学大学院経営研究科(MBA)講師、公益財団法人介護労働安定センター 雇用管理・人材育成コンサルタント、大阪市モデル事業「介護の職場担い手創出事業」アドバイザー、日本介護経営学会会員

1966年大阪府生まれ。大手生命保険会社勤務を経て、1999年に介護業界に転じ、上場企業および社会福祉法人において数々のマネジメント職を歴任。2019 年より現職。マネジメントに関する講演実績多数。近著に『老いに優れる』(社会保険研究所)、『介護現場をイキイキさせるマネジメント術』(日本ヘルスケアテクノ)がある。