60点のマネジメント② ~運営チーム内で分担する【マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~Vol.27】
本記事は、人材開発部によるマネジメント連載企画「マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~」のVol.27です。(Vol.1から読み始める場合はこちら)
60点のマネジメント② ~運営チーム内で分担する
マネジメント業務の停滞

管理者が行うマネジメント業務は、主要なものだけでもこんなにある。これらの業務は、自身が手をつけるか、主任層がサポートしない限り、決して前には進まない。いつの間にか誰かがやってくれていた、などということは決してない。
介護事業所の管理者は、多かれ少なかれプレイング・マネージャーだ。マネジメント業務とプレイング業務を、何とかやり繰りして兼務で進めているのだが、プレイング業務が多過ぎると、マネジメント業務の棚上げ状態が長く続くことになる。忘れてはならないのは、これらのマネジメント業務の停滞が、介護現場で起こる様々な問題の原因になっているということだ。
たとえば、事故報告や事故対応の怠慢によって同じ事故が再発することはよく聞く話だ。職員からの報告・連絡・相談を聞きっぱなしにしたり、職員間の人的対立の調整が放置されたままになったりすると、職場環境が悪化していくことも、よく知られている。健康面に問題を抱えた職員への配慮不足や、初期段階の不十分なOJTが離職につながることも、知らない人はいないだろう。
また、事業所の美化・清掃、設備・車輛・消耗品の管理、経理管理、介護記録等の管理といった業務は、何ヶ月かに1回まとめて行えば済むという種類の仕事ではない。小さな行動の積み重ねで維持されている業務の停滞は、リスクの蓄積に等しい。それはやがて取り返しのつかない問題に発展する危険性が高い。

マネジメント業務を分担する
一覧表に記した業務は、すべて管理者が担うマネジメント業務である。この中で○のついていない①~⑥の業務は、基本的に管理者がひとりで行うことになる。
①運営方針はその事業所の長である管理者が決めるべきものだ。②利用者獲得のための営業活動や③人材採用、④地域との連携に関する社外活動といった仕事も、責任者の「顔」がものをいう世界であり、できるだけ管理者が行った方がいい。
また、⑤業績管理や⑥報告書・稟議書等の作成、各種会議への出席は、管理者以外の者が行うのはおかしい。会議出席の代行を立てることはあり得るが、あくまでも緊急時の話であり、度重なると責任感そのものを問われかねない。
一方、○の付いている⑦~⑳の業務は、主任層で一次的対応や一部補佐的対応が可能だ。主任層の受け持つ業務は、利用者状況・職員状況の常時把握と、自身によるプレイヤーとしてのケア業務が基本となるが、後者の業務を玉突き型委譲で軽減することによって、管理者に代わって⑦~⑳の初期対応を行えるようになる。
たとえ部分的にであっても、初期対応を行えるようになったその業務については、少なくともマネジメントの停滞を防ぐことができる。運営チーム内の分担によって、複数のマネジメント業務を同時並行で進めるわけだ。

初期対応や前捌き、部分的なサポート
当然、①~⑥同様に、⑦~⑳の仕事も管理者がやるべき仕事ではある。だが、毎日のように発生するこれらの多種多様な業務を、最初から最後まですべて管理者ひとりでこなすのは不可能に近い。
だからといって放置すれば、マネジメントの停滞によって様々なリスクは蓄積していく。初期対応や前捌き、あるいは部分的なサポートを、主任層で分担するのが現実的だ。
まず、初期対応や前捌きは、⑨⑩⑪⑫が該当する。⑨事故の把握と予防については、事故報告書の中で虐待や不適切ケアの兆候、それ以外にも利用者のADLや疾患の状態に気になる変化がみられる場合などは、すぐ管理者に報告をあげる。
逆に、管理者がみるに堪えないようないい加減な事故報告書があれば放置せず、その場で主任層から職員に書き直すよう指示する。
⑩職員からの報告・連絡・相談についても、あらゆるものを管理者に伝えるのではなく、一旦、主任層で受け、管理者が知っておくべき内容だけ上にあげる。相談事についても、主任層で判断できるものはその場で返答してしまって構わない。それは、⑪職員間の人的対立の調整と⑫職員の健康状態の管理についても同様だ。主任層で一次的に対応し、対応しきれない案件は管理者にあげる。場合によっては運営チームで話し合う。権限委譲とはそういうことだ。

現場でできることは現場で
部分的なサポートは、⑦⑧⑬⑭⑮⑯⑰⑱⑲⑳が該当する。⑦運営基準・各種加算の要件となる帳票の整備と⑧日常的労務管理については、自分のチームについては分担が可能だ。⑬は定期報告、⑭は自分たちで作成したものについて最終判断を仰げばいい。
⑬人材育成については、既に主任層や、場合によってはエルダーが行っていることも多く、育成の進捗のみ管理者に報告しているのが現実だろう。
⑭人事考課と⑲家族対応は、むしろ現場責任者である主任層の方が、正確な現状や事情、適切なコミュニケーション方法を把握しているはずで、管理者よりも彼ら彼女らの方が適任の仕事だといえる。当然、複雑な判断や難易度の高い対処が必要な場合は管理者の出番となるが、それ以外については主任層の意見を尊重した方がいい。
⑮事業所の美化・清掃状況の管理、⑯設備・車輛の管理、⑰消耗品の管理、⑱経理管理(小口現金のみ)は、部分的サポートというより主任層がメインの業務である。ただ、丸投げにならないよう注意は必要だ。時折管理者が、直接抜き打ちでチェックすることが望ましい。
⑳行政監査対応は、まさに現場での日々の積み重ねがものをいう。管理者が行う運営指導当日の対応より、その日に至るまでの着実な記録等の方が重要なのはいうまでもない。

Vol.28へ続く
※次回更新は2026年1月初旬の予定です。
株式会社エクセレントケアシステム 執行役員 / 人材開発部 部長
兵庫県立大学大学院経営研究科(MBA)講師、公益財団法人介護労働安定センター 雇用管理・人材育成コンサルタント、大阪市モデル事業「介護の職場担い手創出事業」アドバイザー、日本介護経営学会会員
1966年大阪府生まれ。大手生命保険会社勤務を経て、1999年に介護業界に転じ、上場企業および社会福祉法人において数々のマネジメント職を歴任。2019年より現職。マネジメントに関する講演実績多数。近著に『老いに優れる』(社会保険研究所)、『介護現場をイキイキさせるマネジメント術』(日本ヘルスケアテクノ)がある。