60点のマネジメント③ ~権限を委譲する【マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~Vol.28】
本記事は、人材開発部によるマネジメント連載企画「マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~」のVol.27です。(Vol.1から読み始める場合はこちら)
60点のマネジメント③ ~権限を委譲する


2つの意味で「退く」
権限委譲を進めるために、管理者は、物理的にも心理的にも一歩退かないといけない。
物理的に退くというのは、「自分以外の人でもできる仕事」はできるだけ別の誰かに任せ、「自分にしかできない仕事」に専念する、ということである。
具体的には、前回説明した①~⑳が、管理者にとっての「自分にしかできない仕事」であり、中でも①~⑥は本当に誰にも任せることができない管理者だけの仕事だ。一覧表の中にない仕事は、基本的にすべて「自分以外の人でもできる仕事」であり、⑦~⑳の仕事も、一次的対応や一部補佐的対応については主任層に任せることができる。
心理的に退くというのは、他の人に渡してしまった仕事がどうなったのか、いつまでも気にしないということである。
十分な引継もその後のフォローも必要になるが、一旦渡してしまったあとは、その職員のやり方が多少違っていても、クオリティが一旦下がってしまっても、目に余るひどい内容でない限り、あきらめる気持ちが大切になる。
また、こうして管理者が物理的・心理的に退くことで、権限委譲された部下は次のステージに挑むチャンスを得ることになる。それまで経験することのなかったひとつレベルが上の仕事や、難易度の高い仕事を経験できるのだ。
管理者は、権限委譲が単なる業務分担に留まらず、後継者育成でもあることにもっと自覚的であるべきだ。

物理的に退く
権限委譲はしたいが「仕事を渡せる人がいない」という管理者は多い。仕事を渡すに足る主任層のような役職者がいないといいたいのだろう。あるいは、仕事を渡せるだけの能力がある主任層がいないといいたいのかもしれない。
だが、仕事を渡せる役職者がいないのなら、何とかして任命できるよう努力するのが管理者の仕事だ。また、仕事を渡せるだけの能力がある主任層がいないのなら、時間をかけて育てるのも管理者の仕事だ。
ただ、この話の裏には、もうひとつの難問が隠れている。それは、「仕事を渡せる人の手が塞がっている」という問題である。既に仕事を渡せる役職者がいて、渡せるだけの能力があるにも関わらず、その人の業務キャパシティに余裕がないため渡せない、ということだ。この状態のまま仕事を渡そうとすると、大半の主任層は拒否感を示し、無理に渡せばキャパオーバーになってしまう。
この連載で以前紹介した介護助手の導入による「玉突き型委譲」は、管理者が物理的に退くための具体的な対応方法のひとつでもある。はじめに、最終的な受け皿となる新たなパート介護職・介護助手を雇用し、管理者⇒主任層⇒正社員介護職⇒新雇用者を含むパート介護職もしくは介護助手、という流れで仕事を順送りしていく。そうすることによって、主任層の手を空け、そこに管理者業務の一部を移していくことが可能になる。
心理的に退く
心理的に退くためにはあきらめることが大切になるが、介護職から昇格した管理者の多くはどうしてもあきらめきれないようだ。部下が自分のコピーでないことは重々承知していても、自分のようにふるまえない部下の姿を目の当たりにすると、一言いわずにはいられなくなるのである。
ケア業務にも、ケアプランにも、シフト作成にも、正解はない。管理者の考える正解はあくまでも自分なりの正解であって、唯一絶対のものではないだろう。主任層なりの正解もあるはずで、それはそれで別の正解かもしれない。
この考え方を、多少無理をしてでも飲み込んでしまうことが、心理的に退くということなのである。中四病のノスタルジーが「全部あなたでなければできない仕事よ」とささやいてきても、耳を貸してはいけない。
アドバイスはしてもいい。相談に乗るのも構わない。だが、一旦任せた仕事にあれこれ口を挟むのはできるだけ控えた方がいい。一次的なものでも、部分的なものでも、委譲した仕事に過度に口出しすることは、せっかく任せた仕事がまた自分も手元に帰ってくることを意味する。そう考えた方がいい。
管理者には、管理者にしかできない仕事が山ほどある。渡してしまった仕事を気にしている暇はない。もし部下に任せた仕事が気になって仕方ないときは、そう自分に言い聞かせるしかないのだ。渡せた仕事は、誰かができる仕事だったから渡せたのである。渡せなかった仕事は、管理者にしかできない仕事だったから、今も自分の手元にあるのだ。

外注・縮小・廃止も選択肢に
玉突き型委譲を実施する際には、併せて、業務の外注・縮小・廃止も検討することをお勧めしたい。
まず、外注としては、自社調理を配食や配達食材にする、フロア清掃やエアコン清掃を業者に委託する、レクリエーションの一部をボランティアに切り替えるなどの方法が考えられる。
外注と聞くと割高という印象が強いが、経費というのは、要は売上との兼ね合いである。大幅に利益が減らないなら、必ずしも否定されるものではない。
縮小と廃止についても、運営チームで一度は検討の機会を設けた方がいい。これには外注も含まれるのだが、もし、現在行っているサービス内容の詳細が5年前に決められたもので、その後ほとんど見直されていないのなら、思い込みを捨てて一度は本気で検討してみるべきだろう。
なぜなら、自事業所の利用者の状態像や平均要介護度、平均認知症日常生活自立度、利用者と家族の意見・要望の傾向などは、かなり変化している可能性が高いからだ。それはつまり、現在行っているサービス内容が、利用者ニーズとずれているかもしれないということである。
サービスの大枠は介護保険制度の基準に沿っていても、その詳細は事業者ごとに委ねられている。特に、入居系や通所系はその傾向が強い。人件費と物価が確実に上昇していることも踏まえれば、現状に合わせたサービス内容の見直しは必須だ。

(Vol.29へ続く / 2026年2月初旬公開予定)
株式会社エクセレントケアシステム 執行役員 / 人材開発部 部長
兵庫県立大学大学院経営研究科(MBA)講師、公益財団法人介護労働安定センター 雇用管理・人材育成コンサルタント、大阪市モデル事業「介護の職場担い手創出事業」アドバイザー、日本介護経営学会会員
1966年大阪府生まれ。大手生命保険会社勤務を経て、1999年に介護業界に転じ、上場企業および社会福祉法人において数々のマネジメント職を歴任。2019年より現職。マネジメントに関する講演実績多数。近著に『老いに優れる』(社会保険研究所)、『介護現場をイキイキさせるマネジメント術』(日本ヘルスケアテクノ)がある。