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第3章 介護現場マネジメントの方法⑤【マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~】

公開日:2025年2月4日

本記事は、人材開発部によるマネジメント連載企画「マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~」のVol.17です。(Vol.1から読み始める場合はこちら

リーダーシップとマネジメントの連動

管理者に求められる3つのリーダーシップ

「介護事業樹」の「根」である管理者に必要なのは、「見識・知見」「モラル」「誠実さ」である。管理者の中にこの3つの要素があれば、そこから「目標を決める」「人の心を動かす」「やる気を高める」という3つのリーダーシップを形作っていくことができる。

まず、管理者は、目標を決めなければならない。常に学んで「見識・知見」を深めることで、自分たちの事業所のより良い目標を決めることができる。決めなければならないのは、業績目標だけではないはずだ。目指すべきサービス品質、望む人材の育成についても、目標が必要になる。

次に、管理者は、目標に向かって職員の心を動かさなければならない。その前提となるのは、管理者の「モラル」である。高いモラルを持つ者の言葉でなければ、人の心を動かすことはできない。

最後に、その目標を達成するために、職員のやる気を高めなければならない。人の心を動かすだけで目標に手は届かない。職員に対する、質的・量的な、あるいは精神的・物理的な、手間を惜しまない管理者の「誠実さ」があってこそ、彼ら彼女らのやる気に火が灯るのだ。自分たちが支えられているという実感は、目標達成を阻む様々な障壁を乗り越える力になる。

見識・知見で目標を決め、モラルで人の心を動かし、誠実さで職員のやる気を高める。これが管理者のリーダーシップである。

リーダーシップだけでは足りない

「根」の3要素を持つ管理者が、この3つのリーダーシップを発揮できれば、それだけで順調に事業所運営ができるような気がしないでもない。だが、実際はそううまくはいかない。なぜなら、これらのリーダーシップは、あくまでも一方通行の管理者発信に過ぎないからだ。

目標を決めるのも、人の心を動かすのも、職員のやる気を高めるのも、主語はすべて管理者である。目標の決定は管理者にしかできない仕事だが、目標を決めただけで目標が達成されるわけではない。モラルを語る者は管理者をおいて他にはいないものの、それだけで組織にモラルが浸透するわけでもない。管理者がやる気を高めるために尽力しても、職員がやる気を出すとは限らない。

つまり、一方通行だけでは弱いのだ。管理者が発信するものを積極的に受け止めようとする姿勢が職員側にもなければ、管理者ひとりが空回り、ということになりかねない。もうひと押し、職員に自発的行動を促す仕掛けのようなものが必要になる。それがマネジメントなのである。

管理者が持つ「見識・知見、モラル、誠実さ」を、「目標を決める、人の心を動かす、やる気を高める」という3つのリーダーシップで表現したように、もう一段階、リーダーシップをより具体的なマネジメントに変換させなければならない。「根」と「葉」は、リーダーシップとマネジメントの連動を介して、はじめてつながることができる。

根(管理者)と葉(職員)はつながっている

マネジメントに変換する

目標を決めたらそれを計画化する。計画化とは、いつまでに、誰が、どのようにして、目標を達成するのか、具体的に定めることである。そして、目標を計画化したら、もう自分で動いてはいけない。裏返していえば、自分で動かなくてもいいように、計画というものを立てたのである。計画管理は、プレイング・マネージャーである管理者のプレイングの割合を減らす方法でもある。

目標に向かって職員を率いていくには、高いモラルを持つ管理者が「一緒に目標を達成しましょう」と語りかけるだけでは足りない。職場のルールをはっきりと示し、ルール違反者がいれば注意を躊躇わず、また役割分担と権限委譲も進めて、組織的に職員を動かしていく必要がある。組織統制にルールの徹底は欠かせない。だからこそ、それを推し進める管理者には高いモラルが必要なのである。職員に「あなたにはいわれたくない」と思われるようでは、ルール徹底どころではない。

目標を達成まで導くには、職員のやる気が高まるよう手間暇かけてサポートするだけでなく、評価と改善も欠かせない。管理者が、チームや個人の仕事ぶりに対して常にフィードバックを与え、また改善につながるアドバイスを行うことで、目標達成の確率は上がっていく。

管理者の中にある仕事に対する考え方や姿勢が、リーダーシップという形で表現され、それがさらにマネジメントという具体的な行動になって、はじめて職員が動くのである。

リーダーシップをマネジメントに変換する

マネジメント連載企画Vol.18「第3章 介護現場マネジメントの方法⑥」へ続く

Writer
柴垣竹生
柴垣 竹生 / Takeo Shibagaki
株式会社エクセレントケアシステム 執行役員 / 人材開発部 部長
兵庫県立大学大学院経営研究科(MBA)講師、公益財団法人介護労働安定センター 雇用管理・人材育成コンサルタント、大阪市モデル事業「介護の職場担い手創出事業」アドバイザー、日本介護経営学会会員

1966年大阪府生まれ。大手生命保険会社勤務を経て、1999年に介護業界に転じ、上場企業および社会福祉法人において数々のマネジメント職を歴任。2019 年より現職。マネジメントに関する講演実績多数。近著に『老いに優れる』(社会保険研究所)、『介護現場をイキイキさせるマネジメント術』(日本ヘルスケアテクノ)がある。