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EX Magazine
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介護サービスは誰のものか

株式会社エクセレントケアシステム執行役員(「品質管理部」)の坂本と申します。EX Magazineを担当するようになって2回目の掲載となります。前回は、福祉サービスの品質管理や福祉サービスの質向上の根底となる社会福祉に対する私なりの考えや取り組む姿勢について、今までの経歴も踏まえながら述べてきました。ご覧いただけましたでしょうか。まだの方は、まず1回目を読んで頂ければと思います。

今回は、介護サービスの品質を考えるうえで、そもそも介護サービスは誰のものか考えてみたいと思います。

品質の向上を考える上で前提となる介護サービスの特性

日本では、介護サービスは、原則介護保険制度により提供されています。介護保険制度下で要支援・要介護認定を受けた利用者やその家族は、それぞれの「個別性」と「可能性」をもとに作成されたケアプランにしたがって、介護サービスが提供されます。その際、利用者や利用者家族は、かかった費用の原則1割を利用料として支払います。となると、残り9割である介護給付費はどこから出るのでしょうか。厚生労働省「介護保険制度の概要」によると、これらは国民が負担する税金50%(国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%)と40歳以上の者が支払う保険料50%によって支えられているのです。つまり、「高齢者の介護を社会全体で支えあう仕組み(厚生労働省)」としての大義名分のもと、介護保険制度が成り立っていると言えます。

ところで、弊社は株式会社であり、「特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム)」や「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」などの事業を徳島、京都、関西、関東、神奈川、名古屋、岡山・広島エリアに展開し、運営しています。その運営は、利用者やその家族の居住費や食費、オプションサービス費などによって支えられているものの、その大部分は前述の介護給付費を支える保険料や税金であるといっても過言ではありません。したがって、我々介護事業者は、そのことを肝に銘じ安全・安心な介護サービスの提供を常に試みるよう努力することは当然であると言えます。

高齢者福祉制度の変遷と介護サービスの特性

前述の介護保険制度が1997(平成9)年12月に国会で成立し、2000(平成12)年4月から施行され26年となります。それまでは、「措置制度」という補助金(税金)を中心とした介護サービスの提供体制であったものから、高齢化の進展や平均寿命の伸長などにより「措置制度」では対応しきれなくなり、社会保険方式を採用した新たな介護サービス提供システムである介護保険制度が導入されました。当時、政府は介護保険制度の導入により、株式会社を含めた新規事業者が参入することになり今までになかった介護サービスが増え利用者やその家族がその増えた介護サービスを自ら選ぶことができるようになると主張しました。また、介護保険制度は、今までの「措置制度」とは異なる契約方式により、介護事業者は利用者やその家族の自らの選択により取捨され、選ばれた介護事業者、優れた介護事業者が生き残ることになると主張しました。その結果、介護事業者は大幅に増加しましたし、取捨される状況になりました。

ところが、介護保険制度の導入は、前述の通り以前の「措置制度」の際採用された「応能負担」(稼得能力に応じて負担する)の仕組みから、原則1割負担が導入される「応益負担」(サービスを受ければ受けるほど負担する)の仕組みとなりました。したがって、上限は設けられているものの、その負担は「措置制度」に比べ重くなる傾向となります。加えて、2005(平成17)年の介護保険制度改正により、食費や居住費が原則自己負担となり、それらを含めた負担は益々増加することになります。

そのような状況のなか、介護サービスが必要な利用者やその家族にとっては大きな問題です。我々介護事業者が提供する介護サービスとは、前述の保険料や税金など多くの国民の支えによって成り立っているとともに、利用者やその家族にとって「尊いサービス」、「何事にも代えがたい大切なサービス」であることを自覚する必要があると考えています。それらサービスを提供できる我々介護事業者は、そのことを肝に銘じ、自覚と誇りをもってサービスの提供に取り組むことが重要であると考えています。

社会保障制度の中の介護サービス

厚生労働省「社会保障とは何か」によると、日本の社会保障制度は、①社会保険(年金・医療・介護)、②社会福祉、③公的扶助、④保健医療・公衆衛生の4つに分類され、介護保険制度は①の社会保険に該当します。古くなりますが、国は1950(昭和25)年に社会保障制度の定義を以下のように定めました。

「・・・疾病、負傷、分娩、廃疾、死亡、老齢、失業、多子その他困窮の原因に対し、保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ、生活困窮に陥ったものに対しては、国家扶助によって・・・すべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすること」
 「このような生活保障の責任は国家にある。国家はこれに対する綜合的企画をたて、これを政府及び公共団体を通じて民主的能率的に実施しなければならない。(中略)他方国民もまたこれに応じ、社会連帯の精神に立って、それぞれその能力に応じてこの制度の維持と運用に必要な社会的義務を果さなければならない。」:社会保障制度に関する勧告(1950年)

その後、国は1993(平成5)年に社会保障制度を以下のとおり再定義しました。

「国民の生活の安定が損なわれた場合に、国民にすこやかで安心できる生活を保障することを目的として、公的責任で生活を支える給付を行うもの」:社会保障将来像委員会第1次報告(1993年))

以上のことから共通で言えるのは、社会保障の1つである介護保険制度は、国がその責任にもとづいて介護サービスを提供(保障・給付)することです。その根拠はご承知の通り、日本国憲法第25条(生存権)の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」であり、第2項の「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」にもとづいて実施されています。繰り返しになりますが、当社は介護事業者の一員としてその一翼を担うことに自覚と誇りをもつことはもとより、人としての尊厳を保障する義務をもっていることを改めて確認する必要があると思います。

介護サービスの特性を踏まえた質向上の取組

以上のように、当社が提供する介護サービスは、国民が支払う保険料と税金によって支えられる一方、その国民の生活保障を支える義務を持っています。その対象は、前述の要支援・要介護認定を得た利用者やその家族だけでなく、今後介護保険制度を利用する可能性のある国民や、弊社が運営する施設・事業所を地域で支える地域住民にまでおよぶと考えます。

ところで、私は「福祉サービス第三者評価評価」の評価調査者を約15年務めています。詳細は、このMagazineの後の回に譲りたいと思いますが、簡単に申しますと高齢者や障害者、児童の各福祉施設・事業所が提供するサービスの質を評価する仕事です。この仕事は、あらかじめ決められた基準に則って評価を行いますが、その基準の中で2018(平成30)年の改正で追加となったものに、「地域の福祉ニーズ等に基づく公益的な事業・活動が行われている」があります。この基準は、施設・事業所が地域貢献活動として、有するサービス提供に関するノウハウや専門的な情報を地域に還元する取組について、積極的に評価する項目です。この内容の背景には、前述の介護サービスが、不特定多数の国民の保険料や税金や支えられていることに他ならないと考えています。

弊社では、地域密着型介護(予防)サービスの1つである「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」を多く展開しており、その使命のもと地域への還元も進めているところです。品質管理部では、これら活動をスムーズに行うことができるよう支援していきたいと考えています。その1つとして、代表的な活動を取材し、目に見える形でまとめる作業を進めているところです。それら事例集が完成した暁には、このMagazineでご紹介できたらと思います。ご期待下さい。

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Writer
坂本圭
坂本 圭 / Kei Sakamoto

株式会社エクセレントケアシステム 執行役員 / 品質管理部 部長
川崎医療福祉大学 医療福祉マネジメント学部 非常勤講師、川崎医療福祉大学大学院 医療福祉マネジメント学研究科医療秘書学専攻 非常勤講師、一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟国家試験合格支援委員会委員(科目幹事)、公益社団法人 岡山県社会福祉士会 第三者評価委員会 委員長(事務担当)・評価調査者、一般社団法人日本レセプト学会理事、社会福祉法人弘徳学園評議員、NPO法人晴れ アドバイザー

病院の事務、通所介護の生活相談員を経験、川崎医療福祉大学医療福祉マネジメント学部医療福祉経営学科副学科長を経て、2024年より現職。福祉サービス第三者評価の評価調査者を担っている。医療福祉制度に関する学術論文多数発表。分担執筆『障がい福祉のすすめ』第5章(学文社)などの著書もある。川崎医療福祉大学創立30年記念「未来の医療福祉のあたり前を考える」論文部門最優秀賞受賞。博士(社会福祉学)・修士(社会学)ともに佛教大学、社会福祉士。